ミステリブックガイド

◆小説

 

『明治開花 安吾捕物帖』  坂口安吾

洋行帰りのハンサムで頭の切れる「紳士探偵」結城新十郎がスマートに謎を解いていく、これぞ探偵小説。薄暗い雰囲気の作品が印象に強い安吾の、軽快でテンポがよく、ウィットに富んだ文章が気持ちよい。勝海舟の熱烈なファンでなければ、どうぞ気軽にお手にとってほしいもの。(因みにこれを原案としてアレンジしたアニメ作品も、原作の面影は少ないものの、スタイリッシュな絵と退廃的な世界観で、個人的には結構楽しい。新十郎かっこいい)。(浅井)

 

『魔王』 伊坂幸太郎

他人に自分の考えを喋らせることができる男の話。この小説を構成する一字一句一文すべてが、読者を騙そうとしてくる。こちらも大人しく騙されざるを得ない。結末まで読み切った瞬間の快感は、個人的に随一。脳内麻薬が出る。(浅井)

 

『ステップファザーステップ』 宮部みゆき

親に捨てられた双子の少年と脅されて継父にされた泥棒の、愉快な疑似父子生活。

本も人間関係も、物事にはいつか必ず終わりがくるものだけれど、読んでいるうちに、できれば終わってほしくないと心から願ってしまう。(浅井)

 

『Jの神話』 乾くるみ

舞台は全寮制の名門女子校。生徒たちの誰もが憧れる、美しく完璧な生徒会長とその不可解な死。颯爽と調査に乗り出す、ハードボイルド感漂う孤高の女探偵「黒猫」。……本格ミステリかな?(すっとぼけ)信じた諸々が覆されることの、谷底へ転がり落ちるような感覚に酔えるのでは。面白い。しかし万人にはおすすめできまい。(浅井)

 

『氷菓』 米澤穂信

なんか不思議なタイトルだな、と思って手に取ったが最後、読み終えれば「氷菓……」と呟きながらタイトルの意味にむせび泣くこと必至。(横井)

 

『世界は密室でできている。』 舞城王太郎

初めての舞城作品。白状します、泣きました。真夏の夕立みたいな話です。後に『煙か土か食い物』を読んで改めて「密室」の意味を悶々と考えました。紙の本という媒体も、一種密室であるような気がしてなりません。(横井)

 

『心霊探偵八雲』  神永学

事件を通して、人の醜さや儚さが解かれていきます。文体は軽くあっさりと読めるにも関わらず、物語は心に突き刺さり悩まされます。孤独と死、暖かさと生を感じられる作品です。あと八雲くんがかっこいいという特典付きです(笑)(涼風弦音)

 

『名探偵夢水清志郎事件ノート』 はやみねかおる

わたしの好きなミステリは、「名探偵夢水清志郎事件ノート」です。小学生の時からずっと読んでいました。はやみねかおるさんのミステリは結構読んでいるのですが、夢水清志郎は傑作だと思っています。わたしの小説第一弾も、夢水清志郎からインスパイアされたミステリでした。(長尾早苗)

 

◆絵本

 

『きょうはなんのひ?』(絵本) 作:瀬田貞二 絵:林明子

小学生のまみこちゃんが隠した十枚の手紙を、お母さんが頑張って探し出すというお話です。結末が本当に素敵で、大好きな絵本です。(横井)

 

◆まんが

 

『魔人探偵脳噛ネウロ』(まんが) 松井優征

曰く「推理物の皮をかぶった、単純娯楽漫画」らしいのですが、キャラもさることながら伏線とその回収がすばらしいと思っています。俺の車見たら絶対スゲーって言うぜ!(横井)

 

◆アニメ

 

『ドラえもん のび太と銀河超特急』(原作:藤子・F・不二雄)

随分と前に見たっきりです。これをミステリにカテゴライズしてよいのだろうか。ジャイアンの禁断の星脱出は誰がなんと言おうと名シーンです。(横井)

 

『TAMALA2010』

キャラクターは全て犬か猫の擬人化(二足歩行、着衣)で描かれ、全編白黒で血や主要なものだけは色付きという不思議な世界です。主人公の美少女猫タマラは、母親のいるオリオン座へ旅立ちますが、誤って他の星に不時着します。実際それは仕組まれたことで、タマラは自分の役目を果たしているに過ぎないのですが、彼女の運命というのがまた残酷で……。永遠に一歳を繰り返すタマラの秘密、キャティ・カンパニーという会社の野望など、見ているうちに繋がって来て、また、それに振り回されてしまうタマラの彼氏ミケランジェロや悪徳警官ケンタウルスも話に色を添えます 。本当に、彼ら部外者のキャラが濃すぎるんですよね……ミケランジェロは夢想家で借金まみれ、ケンタウルスはゲイでネズミの虐待が趣味、とか、タマラが作中で吐きまくる毒は、彼らのうち誰に向けられたものでもないのに、こんな世界にはぴったりだ、と思わせてくれます。お話の伏線も見事で、脇役がカフェで話す「手紙が届かない」という会話、作中あちこちに登場する広告にも意味があり、ひとつも無意味な場面がありません。ぼうっと見ている間は、全てが無意味にも思えて来るのですが。本当は三部作になる予定が、一作で未完のまま、といういわくつきの作品でもありますが、一見の価値ありです。(暁 壊)