ファンタジーブックガイド

◆涼風弦音

『指輪物語』J・R・R・トールキン

ここからファンタジー文学の歴史は始まったといえるでしょう。日本では映画「ロード・オブ・ザ・リング」の方が有名ですが、原作を読めば、映画の小さな伏線や制作人のLotR愛を感じ、一層楽しめると思います。私はレゴラス押しですが、原作のレゴラスは紳士王子様というよりお茶目な王子様です。そのギャップにもときめいちゃいますね(笑)

 『神様ゲーム』シリーズ 宮崎柊羽

世界の破滅をかけて、神様探しを託された生徒会一同の話です。ライトノベルなので、さっくりと読めますが、どの話も共感して泣いてしまいました。悩みや願いを抱えた登場人物たちが、副会長によって各々の答えを見つけ出していきます。是非、完璧主義の方や気を張り続けることに慣れてしまった方に読んでいただきたいです。

 

◆藤沢静雄

『七姫物語』 高野和

「東和」と呼ばれる地域を様々な理由から割拠する七つの都市と、その都市に擁立された先王の隠し子とされる七人の姫の行く末を、二人の野心家に姫として祭り上げられた「空澄(カラスミ)」を中心に描く群像劇です。季節の呼び名 など、作品独特の言葉も出てきますが、文体はとても読みやすいと思います。けれどカラスミを基軸に様々な人々の目を通じて、東和という世界の歴史や風土に触れることができるので、読みごたえは抜群です。作中では東和という世界を巡って七都市間で戦争も起こっていて、一種の架空戦記ともいえるでしょう。戦の前の軍人や政治家たちの駆け引き、名将同士の激突も話を盛り上げる見せ場として登場します。しかし、この物語を一番面白くしている花は、題名にもある七姫たちでしょう。七つの違う都市に祭り上げられ、自身の人格や立場を象徴する色と衣装を身に纏い、それぞれの強い思い・願いを持って動く彼女たちの何と凛々しく可憐なことか。読んだらきっと推しメンならぬ推し姫ができ ること間違いなしです。

『辺境の老騎士』 支援BIS

原作はネット小説で、書籍&漫画化されています。魔獣やら亜人やらがいる世界で、長年仕えた主家に暇乞いをした老騎士が、風景と美食を求めて旅に出たのが、世界を揺るがす冒険譚になる、とても楽しい作品でお勧めです。主人公バルド・ローエンが時に老体に鞭打ちながら縦横無尽に駆け巡ってくれるおかげで、練り込まれた世界の姿が生き生きと読者に伝わってきます。領主やら王様やらの政治的な駆け引きや、魔獣や手練れの騎士を相手にした戦闘の描写も迫力があります。バルドが老いた騎士というのも作品の大きな魅力です。人生の様々な悲哀を経験し た彼は、時に過去からの因縁に思い悩んだり、全盛期と今の自分を比べて一消沈したりと、若者たちが想像したこともない苦痛を抱えています。それでも一人の騎士として、成熟した一人の人間として、真直ぐに生き続ける彼の姿に、思わずときめく人も多いのではないでしょうか。渋くて強くて優しくて、愛嬌のあるおじい様好きな方には必見です。

『モモ』 ミヒャエル・エンデ作・大島かおり訳

言わずとも知れた児童文学の巨匠の代表作の一つですね。『はてしない物語』のほうがよりファンタジックですが、今回はあえてこちらを押させていただきます。不思議な力をもつ少女モモが、じわじわと世界中に魔の手を伸ばす時間泥棒たち から、様々な困難にあいながらも、盗まれた時間を取り戻すために駆けまわる物語で、一度は手に取って読んだことがある方も多いことでしょう。これは作者が読む人たちに伝えたいことが非常に分かりやすく、実感を持って感じられる物語です。同時に一つの物語を書く、一つの世界を創作しようとするものにとって、伝えたいことを文字として記すことの難しさを知っている人には、とても参考になる話だと思います。著名な作品ですし、まずは一通り目を通していただきたいと思うので、これ以上は何もいいません。是非とも子どもとか大人とか関係なく、何度でも繰り返して読んでいただければと思います。

 

◆月城まりあ

『裏庭』 梨木香歩

洋館の裏庭で不思議な声を聞き、少女・照美の魂は異世界の旅に出る。導入はまさに王道のファンタジーです。照美の心は母からの愛情の欠如や、弟の死に対しての罪の意識という傷を負っています。現実とはかけ離れた裏庭の世界で、現実の傷とどう向き合うかを見つけていく物語です。個人的には照美が異世界で着る服を選ぶシーンが好きです!

 

◆浅井

『宝石の国』 市川春子

粉々になっても再生する不死の身体をもつ宝石たちと、宝石たちを装飾品にしようとする「月人」たちの戦いを描くバトル・ファンタジー。

美しい宝石たちの中で一際もろい主人公・フォスフォフィライトは戦うことを許されず、自分の役目を探っていく。毒を吐き出すという特性ゆえに自ら孤独を選ぶシンシャや、冬にのみ活動することのできるアンタークチサイトと交流するうちに、やがてフォスは世界と自分たちの成り立ち、月人の謎へ近づいていく。

『風に乗ってきたメアリー・ポピンズ』 P・L・トラヴァース

こうもり傘をさして東風に乗ってやってきたメアリー・ポピンズは、厳しくて皮肉屋なちょっとこわい家庭教師だけれど、どこか愛嬌があってバンクス家の子どもたちとわたしの心を掴んで離さない。寝る前にスプーン一杯だけ舐めさせてもらえる魔法のシロップ、どんな味がするのだろうか、今でも舐めてみたい。

『選ばれなかった冒険―光の石の伝説』 岡田淳

小学生の学とあかりは、保健室に行く途中の階段で異世界にワープしてしまう。そこはロールプレイングゲーム「光の石の伝説」の世界だった。そちらの世界で眠ると現実世界で目覚め、現実世界で眠るとゲームの世界で目覚める。ふたりは現実世界とゲームの世界、不思議な二重生活を送ることになるのだった。昼は平穏な学校生活を送り、夜は“光の石”を巡って戦う異世界ファンタジーの世界へ。ゲームの世界で死んでも、現実世界の自分が目覚めるだけ。けれど、ゲームの世界でのすべての記憶は失われる……。夜の冒険という秘密の共有、に胸が躍ったり。

『りかさん』 梨木香歩

雛祭りの贈り物に、ようこはおばあちゃんにリカちゃん人形がほしいと頼む。やってきたのは黒髪の市松人形の「りかさん」。最初はがっかりしたようこだったけれど、実はりかさんは人と心を通わせることのできる不思議な人形だった。やがてようこはりかさんの力を借りて、古い人形と持ち主たちの時に優しく、時に哀しい思い出に触れていく。人形遊びやままごとをした思い出があれば、きっと心惹かれてしまう物語だと思う。

 

◆錦織

『虹色ほたる―永遠の夏休み―』

ファンタジーなのかわかりませんすみません…

 

◆鳥谷

『ネシャンサーガ』 ラルフ・イーザウ

愛と言うよりアガペー。キリスト教的思想ががっつり入ったファンタジーで、冒険の要素があるけれども、聖人の巡礼とはこんな感じかなと思われる様な雰囲気。異世界で旅をする少年と、その光景を夢に見る現実の世界で生きる少年の話が、作中で展開されてゆく。大切な人への思いは時空間も越える、そんな壮大さがあります。

『サンドマン』 ニール・ゲイマン他

アメコミのDCコミックス(マーベルではない)の最強キャラ候補がでます。同社でもスーパーマンとか他のキャラはほぼ出ません。舞台が現代の話もあるけれど、魔法に近いものを使っていたり、異世界の話があるのでファンタジー。夢を支配する能力を持ったサンドマンが、力を取られたので、現実世界も別世界も大変な事になる話。大きなストーリーだけでなく、短編がけっこう挟まれていて、作中で語られるものには、神話や民話を彷彿とさせるエピソードもあり、私はサンドマンの恋愛にまつわる話が好きです。

『ルナル・サーガ』 友野詳

多種多様な種族と独特の町や国々、それらを七つの月が支配する世界の話、というかルールブックと小説。ガープスを使ったシステムのリプレイですが、普通の和製ファンタジーとしても面白く、ライトノベルなのでさっと読める。しかし、設定がかなり作り込まれているので、設定に拘る人にもおすすめ。ひょんな事から巻き込まれる事件、そしてその裏に世界の存亡をかけた巨大な陰謀が、といった王道ストーリー。

 

◆長尾早苗

『デューク』 江國香織 山本容子

あの、たいへん犬好きの方には失礼なはなしなんですけど、そして江國さんのファンの方には赤面ものなんですけど、大学通学過程1年のときに、「デュークはわたしのもの!」と豪語していた時期がありまして。まだそんなに「読み」のちからも足りなかったのに、学祭で朗読させていただいた作品です。今考えると、懐かしいなあ。が40%。恥ずかしいなあ。が60%でしょうか……。その『デューク』が、絵本になってたなんて!やっぱりファンの方、多いのかなあ。「デューク」という愛犬を失った女子大生のお話です。

『新編 銀河鉄道の夜』 宮沢賢治

「銀河鉄道の夜」はいろいろな方にいろいろと言われているのであえて言いません。(苦笑)わたしがこころに残ったのは「飢餓陣営」という戯曲でした。なんとなく、かもしれないんですけど、宮沢賢治という詩人は、未来を予測しているような気がする。おなかがすくと戦争が起こる。というまあ単純(でもないか。)な方程式の上に、未来への警鐘を鳴らしているような気がするんです。「猫の事務所」や「オツベルと象」もそうなんですけど、非常に風刺というか、これ以上いったら人間ってやばいよ、あぶないよ、みたいな。宮沢賢治には「人間も動物もみな兄弟」という思想が根本としてあるんでしょうね。作品のところどころに垣間見られます。宮沢賢治の作品は決して「児童文学」という枠に収めきれるものではないと思います。というより、意識して「大人のため」に書かれたような気がします。でも、大人って「何か」を忘れてる。子供のころは、植物とだって、動物とだって会話できたと思うんですよ。「常識」「普通」を押し付けられて、アンテナがさび付いてしまった、と思うんです。だから、「ほんとうの幸」を忘れているんじゃなかろうか。なんてことをことを読みながら思いました。 注解は天沢退二郎さん。表紙もプレミアムな感じで、必見です。

『ぱんぷくりん』 宮部みゆき 黒鉄ヒロシ

どうしようもなく疲れたときって、あると思うんですよ。もう悲しいことしか考えられなくなって、ああ、明日も朝がきちゃうよ……。みたいに、ゆううつになってしまうとき、とか。そんなときに、この一冊はおすすめ。宮部みゆきさんのやわらかなタッチの文章に、黒鉄ヒロシさんのほっこりする絵。最強タッグだと思います。読んだ後、思わず顔がほころんでしまうこと、間違いなしの一冊でした! 

 

◆暁壊

『ドラゴンランス』 マーガレット・ワイス トレイシー・ヒックマン

十代の頃、随分夢中で読んでいた記憶があります。元々はロール・プレイング・ゲームだったというだけあって、世界観は複雑でキャラクターも多め。一応児童書だったようですが、ストーリーはかなりシビアで、キャラクターの年齢層も高く、子供向けという感じは全くしませんでした。主人公の「ハーフ・エルフ」よりも、怪力の戦士や誇り高い騎士よりも、味方でありながら限りなく悪に傾いている病弱な天才魔法使い、レイストリン・マジェーレが好きでした。

『裸のランチ』 ウィリアム・バロウズ

幻想と狂気と悪夢の町、「インターゾーン」へようこそ・・・

ストーリーらしいストーリーは皆無で、ひたすら悪夢のような架空の町の悪夢のような出来事が 淡々と語られます。肝臓が無いため甘いシロップしか飲めない化け物、腐ったチーズの味がする食用ムカデのブラックミート、大統領は麻薬中毒者の身体から麻薬を吸い取ってトリップし、分裂主義者は自分の身体から複製人間を作り出し、尻で喋ることを覚えた腹話術師は自分の口を失い・・・脈絡の無いイメージの連続を追い続ければ、いつしか自分もインターゾーンの住人。合法的に異世界トリップをお楽しみください。

『クール・ワールド』

実写とアニメの融合なんて今でこそ珍しくもありませんが、CGも無い時代にこんな映画を作ったということ自体、凄いことのような気がします。全てが平面な絵で構成された漫画アニメの世界に行ってしまった、ただ一人実写の主 人公。捜査官となって漫画世界「クール・ワールド」の秩序を守ろうとするものの、所詮漫画絵の世界なのであり得ないこと、不可能なことの連続。車に轢かれてもぺちゃんこになるだけの世界で公僕やってたって、虚しくなるだけの気がしますが・・・割と大人向けです。

『甲賀忍法帳・改』 原作:山田風太郎 漫画:浅田寅ヲ

甲賀忍法帖の漫画版と言えば、『バジリスク』を思い浮かべる方も多いはず。でも、こちらもかなり面白いです(未完ではありますが・・・)。時代考証も元の世界観も無視した、ファンタジックかつセクシャルな衣装の忍者たちが、原作に忠実に戦います。元々忍者と言うにはファンタジックすぎる技の連続だったせいか、案外違和感がありません 。女性よりも男性キャラの方が露出度多めな服を着ているので、お好きな方はぜひ。

『PRIEST』 邪民友(ヒョンミンウ)

韓国発の漫画作品。神に見捨てられた神父が、銀の弾丸とナイフを武器に、たった一人で悪魔に立ち向かいます。彼がなぜこんな運命を背負ったのか、不死身になってしまった代わりに、段々と正気さえ失って行く彼は、何を想っているのか・・・キリスト教の差別的な要素が容赦なく描かれ、あまり救いはありませんが、続きが気になってどんどん読んでしまいます。枠の外を黒く塗った、映画的な演出も迫力があります。独善的に魔女狩りを行っていたベシエル司祭の弟子、マテオの最期が凄惨でした・・・。

『えとせとら』  なかざき冬

西部劇がベースの漫画ですが、冒険ファンタジーの要素も多い気がします。十二支の動物の成分(毛皮、骨の粉、料理の汁など)を振りかけなければ撃てない銃、「エトガン」の設定が秀逸。放たれる弾丸が、その動物そっくりの動きをする、というのも面白く、今度はどんな動物が出て来るかと楽しみになります。絵柄も可愛くて最初はコメディ要素多めなので油断しがちですが、案外侮れないストーリーで、裏切りや悲しい過去やネイティブアメリカンへの差別問題などが絡んで、読者を飽きさせません。奇銃マニアのイケメンすぎる女ガンマン、妙に腕利きで黒い過去のある偽牧師など、キャラクターも魅力的。ちなみに、「竜はどうするの?」という問題にはちゃんと最終話で答えている ので、大丈夫です。

『ねこぢるごはん COMPUTER TUNED』 ねこぢる

短編集『ねこぢるごはん』の中に収録されているお話。某有名クエストのパロディ。勇者のコスプレをした猫は可愛いのですが・・・とりあえず、何とも言えない気分に浸りたい時に、読んでみれば良いと思います。