あやかしブックガイド

 

 

『巷説百物語シリーズ』 京極夏彦

京極夏彦先生の妖怪ものシリーズの一つで、江戸末期を舞台に「小股潜りの又一」を中心とした小悪党たちが無理難題を妖怪になぞらえて解決していく様 子を、戯作者志望の若隠居「考物の百介」の視点を中心として描いた物語です。実際に妖怪が出るわけではありませんが、妖怪・怪談の成り立ちや、妖怪を信じる人々の心理について考えさせられて大変面白い作品で、アニメやドラマにもなりました。どれも面白いですが、映像作品としては堤幸監督のドラマ版が、ギャグは一番面白いと思います。個人的には四国の狸事情がわかる「芝衛門狸」、蘇った極悪人にまつわる「狐者異」あたりが好きですね。明治の世に入り、珍妙な事件について相談してくる四人組に老人となった百介が昔語りをする『後巷説百物語』の中の「手負蛇」もお勧めです。(藤沢)

 

『狂骨の夢』 京極夏彦

京極夏彦先生のデビュー作 から続く、戦後日本を舞台とした「百鬼夜行(あるいは京極堂)シリーズ」の三作目です。記憶喪失の女、首を切られた男が蘇えるという話、逗子湾に浮かぶ金色の髑髏、そして起こる殺人事件の裏に潜む遥か昔からの因縁。複雑怪奇極まる闇を、憑き物落としが祓い落とした時に見えてくる真実に、読んだら仰天してしまうことでしょう。映画化された前の二作品や、シリーズ最長の『塗仏の宴』と比べると人気が下がるかもしれませんが、ラストの情景や登場人物の印象のせいか、シリーズの中では読了後に最も晴れやかな気持ちになれました。事件の内容などはかなりスプラッタな話のですが、京極先生の文体のおかげというか、狙いが違うところに置かれているであろう作品 なのでそこまで気持ち悪くはない……はず。一度は手に取って読んでいただきたい小説です。(藤沢)

 

「しゃばけ」シリーズ 畠中恵

とんでもなく病弱だけど頭の切れる大店の若だんなが、江戸で起こる奇妙で不可思議な事件を解決していきます。この作品の魅力はなんと言っても個性豊かな登場人物達。若だんなの安泰は日の本の安泰と信じている二人の兄や(二人とも本性は力の強い妖)、江戸一番の親馬鹿と言われる両親、菓子司の跡取りとして生まれながら一向に餡子作りが上達しない幼なじみ、そして見た目も性格も様々な妖達などなど……。世間一般の常識からは少しズレている妖達と、そんな妖達に振り回される若だんなの会話劇はちょっとしたギャグ漫画のようです。おどろおどろしい事件の中に潜む人間の闇と可愛らしい妖達のコミカルな活躍のギャップが痛快で人情味があって、私の「妖怪」に対するイメージを180度変えてくれた作品です!(宙井)

 

『珍奇怪 江戸の実話』 早川純夫

江戸時代の実話(と、思われる)出来事をまとめた本。笑い話もありますが、あの時代は本当に妖怪が実在していたのでしょう。少なくとも、誰もがそう信じていたのだと思います。現代人から見たら笑ってしまうようなことも、当時の人は大真面目に考えていたようです。狐に取りつかれたら→全身にマグロのすり身を塗って犬を放す。犬に嘗められまくってるうちに狐が怖がって逃げる。とか。(暁)

 

『はかぼんさん 空蟬風土記』 さだまさし

映画化もされた「解夏」「風に立つライオン」などでもお馴染みのさだまさし氏による奇譚集。「私」が日本全国を長く旅する間に見つけた不思議な話をまとめたという設定で書かれています。京都に伝わる「はかぼんさん」、石川のある村で行われる神寄せの神事、信州安曇野の鬼の宿に嫁いだという知り合いの話といった感じの六つの短編にまえがき・あとがきを加えた構成にです。どの話も大変興味深いのですが、個人的にはまえがきとあとがきがミソなのではないかと思っています。まえがき・あとがきというと大抵は地の作者が出てくると相場が決まっているようなものなのですが、今作では徹底して「作中の私」がそれを書いているという体を貫いています。なんと言いますか、本作作者の有名人「さだまさし」と「作中の私」がダブって見えて、創作と現実の境目が分からなくなるという構成です。民話や俗信なんかに当たるときはどこまでが本当でどこからが創作なのかという着目点が面白みのひとつになると思うのですが、この本はまさにそれを体現していると言えるんじゃないでしょうか。夏目漱石の「夢十夜」がお好きな方はハマるのではないかと思います、ぜひに。(横井)

 

『妖怪アパートの幽雅な日常』 香月日輪

講談社のYA!ENTERTAINMENTから全10巻で刊行された作品。中学一年生の頃に両親を亡くし、預かってくれた親類とは上手くいかず、高校では寮に入ろうと思っていたところそこが全焼、うまく転がり込めたアパートはへんな住人がいる妖怪アパートだったーー! 笑いあり涙あり成長あり、リアルタイムで刊行を楽しみにしていた我らの世代の一種バイブルのような何かなのでは。個人的に思い入れ深いのは一巻で、天涯孤独になった主人公が前向きに元気に生きられるように、とアパートの面々に支えられながら生活を見直すところがあるのですが、そこのご飯描写がめっちゃおいしそうだと当時から思ってました。アニメ化おめでとうございます、るり子さんの飯の描写期待してます。(横井)

 

『もののべ古書店怪奇譚』 紺吉

【鬼】7つまでは神のうち系ショタがいます。ショタに振り回される青年と青年を尻に敷くショタこんびかわいい。(橙雫)

 

『自縛少年花子くん』 あいだいろ

【物怪、怪談】自己ちゅーに見えて情緒不安定ショタが主人公。学園ものです。ヒロインも自業自得で頑張るので好感。(橙雫)

 

『ノラガミ』 あだち とか

【神】アニメ化もしました。相棒役ショタのクソガキっぷりと更生後の天使っぷりがやばい。(橙雫)

 

『一鬼夜行』 森川 侑 (著) 小松 エメル (原著)

【鬼】原作未読ですが主人公ショタがかわいすぎて涙出る。友情ものなので安心して読めます。(橙雫)

 

『虚構推理』 片瀬 茶柴(著) 城平京(原著)

【物怪、怪談】個人的には小説派ですが漫画も絵がきれい。ギャグものに見せかけた推理ものっぽいラブコメです。(橙雫)

 

『あだしもの』 山本久美子

【物怪】ねずみ(骨格)、蛇(神使)、雷獣(4つ足ケモ)とオールラウンダーにカバーされてます。当然ショタはかわいい。(橙雫)

 

『けんえん。』 風越洞×壱村仁

【物怪、神獣】しっぺい太郎の話のスピンオフのような。攫猿が猿のくせにショタkawaiiうえ犬なのでお勧めするしかない。(橙雫)

 

『カミツキ』 前田 とも

【付喪神】マスコット化された神様の物量によるかわいさの暴力。物を大事にしようと思います。(橙雫)

 

『もののがたり』 オニグンソウ

【付喪神】物のくせに神の視点で平気で人に害をくわえてくるからたまらない。割と激しいバトルあり。(橙雫)

 

『あめつちだれかれそこかしこ』 青桐ナツ

【神】神のくせに人に寄り添ってくるからおろそかにはできないと思う。大きな盛り上がりは特にないけど、安心して読める内容です。(橙雫)

 

『向ヒ兎堂日記』 鷹野 久

【物怪、鬼】妖怪と人が共存できるか否か、みたいな話。自分勝手に妖怪の存在をあるものにしたりないものにしたりする人間に結局付き合ってくれるのがそれらの存在の魅力なのかなと思います。(橙雫)

 

『少年ドールズ』 響ワタル

おどろおどろしい妖物の小説ではなく、ハートが飛び交う少女漫画です。人形の声が聞こえる人形師の主人公が、夜だけ人間になれる人形と共に、心が歪んでしまった人形の魂を浄化していくお話です。人形としか仲良くなれない主人公の苦悩や、それを見て遣る瀬無い気持ちになるドールたち、そして捨てられた人形たちの心が繊細に描かれています。(涼風)

 

『蟲師』

鎖国をし続けた日本という設定で描かれた作品。動植物たちとは違う生き物、生命の原形「蟲」。それらが引き起こす怪現象を解決するため、蟲師・ギンコは今日も旅をする。蟲と人との関わり合いを通して人間のあり方を問う漫画だと思ってます。今の環境倫理学とかの分野にあたるのでは。中学のとき以来個人的なバイブル。倫理とか生物とか、哲学的な命題みたいなものが好きな人はきっとハマるやつです。(横井)

 

『町でうわさの天狗の子』 岩本ナオ

人間と天狗のハーフである刑部秋姫。父は町で一番偉い天狗で、秋姫はその後を継ぐことを望まれているが、本人は天狗にはなりたくないと修行をサボっている。そんなことより、わずかな学生生活を謳歌することのほうが彼女にとっては大事だったのだーーという少女漫画。出てくるキャラクターがみんな個性的。天狗修行中の動物(もちろんお約束の人間体があります)や他山の天狗、ちょっと困り者なあやかしたち、純人間ながら天狗を目指す幼馴染の瞬、彫ったものが神力を持ってしまうタケル、親友の女の子緑ちゃんなどなど、一癖も二癖もある登場人物が活躍します。個人的には西城が一番好きです。(横井)

 

『鬼灯の冷徹』 江口夏実

アニメ化もされた漫画作品で、閻魔大王を虐げるドSな副官・鬼灯様を中心に日本の地獄の様子を描いたコメディです。地獄のお仕事事情、 日本昔話裏事情、現代日本の幽霊事情などの話題に混じって、可愛い座敷童を代表とした妖怪たちも多数登場しています。

ボッタクリ妓楼を経営する妖狐、バイクで爆走する化け猫などなど、個性的な妖怪たちの姿は「そうきたか」という面白さがあります。また地獄の仕組みや死後の裁判の様子を詳しく説明してくれるので、読み終わるころには立派な地獄通になれること請け合いです。

個人的には地獄のチップ&デールこと小鬼の唐瓜&茄子のコンビが一番好きです。(藤沢)

 

『すっくと狐』 吉川うたた

古いホラー漫画ですが、子どもの頃から本当に大好きです。妖怪狐と人間の少女の恋愛もの……と言うと、今ではもうひとつのジャンルとして確立された感じではありますが、この漫画に出て来る狐の男たちは、ただのキラキラふわふわした非現実的なイケメン、ではありません。美形は美形なのですが爪も牙も尖ってて目つきも鋭くて、獣というか、かなり異形っぽいのです。敵と戦う時も妖術や武器なんかはほとんど使わず、爪と牙で相手が死ぬまで引き裂き合い、常に画面は血塗れ状態。手足が宙を飛んだり、顔面の皮を剝いだり、目玉抉り出したり、白黒であってもかなり迫力があります。彼らがどうしてそこまでするのかと言えば原因は大体女性関係で、親子兄弟 で殺し合うお話もあったり。綺麗な恋愛とは言えない分、命がけで恋をするってのはこういうことだ、というのが伝わります。他人の目や社会のことを全く考えず、欲望のまま突っ走って邪魔者は排除、という考えは妖怪ならではですが。現代のうじうじした恋愛ものに飽きた方は、非常にスカッとできるかもしれません。メインの狐は三匹いるのですが、それぞれ性格もタイプもイメージカラーも異なるので、誰が好みか考えるも良し。それぞれ背負うもの、大切に思うものが違うので、同性のキャラ同士でも単純な友情にはなり得ないところも好きです。仕草や台詞から細かい心情を読んで行くと、最初とはまた違った魅力を発見できたりして。もちろんストーリーも面白く、特に4巻~5巻の鵺 編、6巻~7巻の双狐編、8巻の狐狩り編はどれも映画的。適度に短いミドルストーリーなので、中だるみせず、どんどん読めてしまいます。敵の妖怪も元ネタがあったりして、何度読んでも良くできてるなーと思います。(暁)